「す、好きです…」

その子はうつ向いたまま、俺に言った。

前髪まで長いから不気味。

その上分厚い眼鏡までかけて、不細工。

あんまり喋らないから気持悪い。

そんな子だった。

西本千佳子。

「好きです…付き合ってください」

その子は決められた台詞を恥ずかしそうに口にした。

それが彼女の役割だったから。

そして俺の役割は彼女を笑い者にする事だった。

「それ、マジで言ってんの?気持わりぃよ。俺ってばさぁ、年上が好みなんだ」

その子は真っ赤になった。

同時に周りには笑い声が上がる。

その子は泣きそうになっていた。

俺も調子に乗って言葉を紡ぎだした。

「でもまぁ同い年でもいいぜ?ただしお前と違って…」

周囲の笑い声が心地よかった。

「ちゃんとした人間だったらね」

別にその子の事が嫌いなわけじゃなかったんだよ。

でも俺があの場であんな態度取らなかったらどうなってた?

皆の盛り上がった雰囲気をぶち壊して、俺まで白い目で見られるんだぜ?

あの子が一人犠牲になるだけで、何人もの人が楽しく暮らせるんだよ。

ありがとう千佳子ちゃん、西本さん万歳。馬鹿馬鹿しい。

その子は泣きはじめた。

周りの女子が「藤村君に迷惑かけたんだから、謝らなきゃだめでしょー」とはやしたてる。

西本千佳子はうつ向いたまま、すすり泣いていた。

ずっと顔を上げないまま、真っ赤に腫らした目と流れる大粒の涙を俺や皆には決して見せなかった。