俺があの人に出会ったのはまだ6才の頃だった。

母親に連れて来られた図書館で迷子になった俺は、泣きながら、いつの間にか2階の西側のコーナーに来ていた。

日も暮れて、綺麗な夕陽が俺の泣き顔を照らした。

「どうしたの?迷子?」

救いの声は斜め上から聞こえた。

声の主は俺の目線までしゃがみこむと、優しく微笑みながら言った。

「お母さんが来るまで、一緒に絵本読もっか。名前は?」

「ふじむらけんと、です」

長めの髪が夕陽によく映えて、昔幼稚園の先生がいっていた「マリアさま」を連想させた。

小学生になったばかりで幼稚なプライドを振りかざしていた俺には少し恥ずかしい提案だったが、不安が勝り、俺は首を縦に振った。

その人は俺を椅子に座らせるとその横に腰掛け、朗読を始めた。