「じゃあねママ行ってきます」


綾が笑顔で出かけていった。


仕方なく送り出したものの、早紀は今も納得はしていないし不満である。


あの事件以来、ようやく手に入れた幸せ。


その中心が娘の綾なのだ。


もちろんいずれは嫁に行くのだろうけれど、今は家庭の中になくてはならない存在。


そんなだからついつい過保護になってしまい、必要以上に構いたくなる。



年頃になった娘が、それを疎ましく思っていることも分かっているけど、それでも早紀は綾を構いたくて仕方ないのだ。


小学校のときの海事研修や、山の学習、修学旅行といった行事で、一日二日家をあけるだけでも不安でいたたまれなくなった。


その娘が部活動で二泊もするというのだ。


二泊。


まぁ、普通なら短いくらいかもしれない。


でも早紀にとっては、あまりにも長い時であった。