このとき輝之はまだ生きていた。



滑り落ちた先の、わずかな平面の上で……。



早紀がみんなを呼びに行ってから約三十分。


足の痛みに耐えながら、ただその帰りを待っていたのである。


この時もし、敦也と瞳が会話していたなら、その声に気がついたであろう。

しかし、二人はこの時無言だった。


吹き付ける風と波の音に、敦也と瞳の足音はかき消され、輝之の耳には届かなかったのである。




瞳と敦也が通り過ぎた五分後……。



美絵が見た、あの長い髪の女が、敦也と瞳の後を追うように現れ、


そして輝之が滑り落ちた跡を見つけて微笑んだ。