桜色ノ恋謌


「如月咲絢さん、どうぞ」


診察室から声がかかった。




フラフラのあたしの体を恭哉くんが支えてくれた。


年をとった、厳しそうな女のお医者さんだ。


「はい、如月さんね。血圧から測りましょう。腕を出して」


先生に言われた通りに腕を出した。


「……血圧が低いね。食欲はありますか?」

「……ないです……」

「睡眠はどう?ちゃんと眠れてる?」

「……寝れてないです……」

「ふぅむ」


先生がカルテにさらさらと何かを書き込んだ。


「お腹のここら辺、たまに痛まない?」


先生はそう言ってあたしの胸の下を軽く押した。

途端にキリッとした痛みが走る。


「あ…。ちょっと痛い、です」


そしてまたカルテに書き込む。


「……何かストレスが溜まるような事があるのかな?よければカウンセリングも紹介するけど。この子未成年でしょ?」


先生がそう言って恭哉くんの方を見た。


「カウンセリングは要らないです。こっちでメンタル面でのサポートはしますから」


恭哉くんも不安そうに先生に言った。


「そう。じゃあ今日は栄養剤の点滴を受けて行って。薬は睡眠導入剤と胃炎の薬と……漢方薬を出すから。まだ若いんだから抗鬱剤は使いたくないわね」

「ありがとうございます」


あたしの代わりに恭哉くんが先生に頭を下げた。

遅れてあたしもぺこりと下げる。


「……あんまりね、ストレスを溜めないようにしなさいよ。お大事に」


先生があたし達を下げさせると、看護婦さんがさっきの隔離室にあたし達を連れてきた。


手には点滴のための薬が入った袋と針。