桜色ノ恋謌

こんなとこに来てるのが、もし誰かにバレたらって考えるだけでも、怖い。



……息をするのが苦しい。

また身体中からざぁざぁ音がする。




「心配しなくていいから。ゆっくり息を吐いて」



俯いてガタガタ震えていたあたしの背中を、恭哉くんが擦ってくれた。



「隔離室を用意してもらったから。咲絢だってバレないように」




恭哉くんに返事ができない。


苦しいよ。




「ちょっと、わりーな。触るから」



恭哉くんがあたしを横抱きにして裏口から病院に入った。


「呼ばれるまで少し待ってて。すぐだからな」


呼ばれるまでの間、ずっと恭哉くんはあたしの手を握っていてくれた。

血管が浮き出て、不健康な手を。


あたし今、どんな顔をしているんだろう?


仕事のときはメイクさんやスタイリストさん達が上手くやってくれてるから、素顔の自分がどんな顔なのか分からない。