「咲絢、高橋さんがいらしたわよ!早く学校に行く準備して!」


お母さんに追いたてられるようにして玄関を出た。

「はい。久しぶりのお弁当」

「ありがとぉぉ!」

お母さんにお昼のお弁当を作ってもらうの、中学生の時以来だ!

「学校に行くのも久しぶりでしょ?お友達とは仲良くしなさいよね」

「はいはい。いってきます」



高橋さんが運転する車に乗って、お母さんに手を振った。


「お母さまがあなたの事を心配なさっていて、あちこちの編集者にあなたの仕事ぶりを聞いてるみたい。……とてもいいお母様ね」

「……はい」


お母さんを褒められたらくすぐったくなって、もしかしたら高橋さんもいい人かも知れないと思い始めた。


「高橋さんって、何歳なんですか?」

「私?今年で42才よ。結婚もしてないのに立派なオバサンよね」

「でも『仕事ができる女の人』って感じがします」

「そう?ありがと。でもこの業界には20年以上もいるんだから、できて当たり前なのよ」

「……すごいですね……」



あたしが生まれる前からこの世界にいた人なんだ。

結婚をしない……って。


そんなに仕事が好きだったんだろうか?それとも、何か理由があって結婚したくなかったのかな?


しょせんまだ16才にもなってないあたしに、理解できる人生ではないと思う。


それに、高橋さん自身からそれに対してフォローの言葉が出てこないし。