「オツカレサマー。ドキドキするよね?」
あたしが控室に戻ると、嘘臭い笑顔をした女の子に声をかけられた。
「はい。オーディションとか初めてだから……」
その子は口に手を当てて驚くふりをした。
どうでもいいけど、行動の一つ一つが計算じみてて胡散臭い。仲良くなれそうにはないタイプだよね。
「私はこのオーディションで5回目だけど、雰囲気にのまれちゃうんだよね。でも今日の審査員の鈴山さんとは顔見知りだから、今回はきっと上手くいくと思うの」
「……はあ……」
だから何?
そりゃあたしは、あなたみたいにオーディションに一生懸命になってるわけじゃない。
だけど、手痛い失恋から自分を引っ張りあげたい、前に進みたい気持ちは絶対負けてないと思う。
そうだよ。
あたしはあたし。
どうせ最終審査まで残ったのなら最後の栄光も掴み取りたい。
負けたくない。
失恋ごときで挫ける自分自身に。
さっき浴びた、舞台のスポットライト。
またあの中に、飛び込みたい。
あたしは、上に登りたい。
何も言わずに控室に集まる女の子達を見回した。
皆がライバル。
あたしはこの中の誰にも、負けたくない。


