「咲絢、準備はいいか?」

昂くんが声をかけてきた。


「うん、今行く」


制服の衣装を最後に鏡に映して、あたしは控え室を後にする。



廊下を並んで歩いていたら、昂くんが思い出したように、いきなりあたしの肩を叩いてきた。

「えっ。いきなり何?」

不意を突かれてびくぅっと飛びすさる。


「ああ、ごめん。あのさ、明日の咲絢のオフ、前に撮影で使ったテーマパークに一緒に行きたいんだけどさ」


テーマパーク?仕事かな?


「オフなのに仕事入れたのー?テーマパークならいつでもOKだけどさぁ」


休む暇もないのか。つーか高校に入ってからはあんまり学校にすら行けてないのに。


「違う違う。個人的に。まぁ……デートしよ、って事なんだけど」

「……デート?昂くんと?」

「俺とじゃ嫌か?」


そんなことない。

昂くんと一緒なら安心できる。


「明日が楽しみ。だけど急になんでデートなの?」

へらっとあたしが笑うと、昂くんはいつものように頭を撫でてくれた。

「……ご褒美。いつも仕事頑張ってくれて、ありがとうって意味でね」

「なにそれ。仕事だから当然だし」


昂くんは何も言わないで、あたしの頭から手を離した。



「……今日は最後まで気を抜かないで頑張れよ」



昂くんに大きく頷いて、あたしは現場に戻った。