「あれ?恭哉くんだ!久しぶりー」

次の日の朝早く新聞を取りに玄関を開けると、隣の家に咲絢が入るところだった。


「……お前、今仕事終わったのか?」


徹夜明けなのか、顔色が悪い。


「ドラマの撮りが終わってから雑誌の撮影が入っててさ。もー大変だよ」

「無理すんなよ」


痛々しくて見てらんねぇよ。


「ん。でも楽しいからね。そうだ、恭哉くん。ケーキ貰ったんだけど、一緒に食べない?」

「今からか?」


つーか今、朝なんだけど。どんだけこいつ乱れた食生活してんだよ。


「コーヒーなら付き合うけど」

「じゃあ、あたしの部屋に上がってて。コーヒー淹れてくるから」



久しぶり過ぎて実感が湧かねぇ。

咲絢の部屋に行くなんて、何年ぶりだっけ?

そもそも咲絢と話すこと自体2年ぶりぐらいじゃないか?



昔はよく遊んだ咲絢の部屋に入ってベッドの脇に座った。


「インスタントだけどいいかな?」

「なんでもいいけど」


咲絢が淹れてくれるなら何だっていい。


「ケーキ食べる?」

「いやそれは遠慮する」


さすがに朝起きてすぐにはそんなもん食えね。


「……仕事、どう?」

場が沈黙するのに耐えられなかった俺は、眠そうな咲絢に話しかけた。


「ドラマがね、結構大変なの。ここだけの話、本当は1クールで終わるはずだったんだけど、予想外に反響が大きかったから映画での続編が決まったんだ。テレビの方はもうすぐ終わるけどね」


メロンが乗ったケーキをつつきながら、咲絢が他人事のように説明した。


「映画とか凄いな。お前、本当に大丈夫か?」


大丈夫だよ、と咲絢は笑う。


だけどその笑い方は間違いなく無理してる時の笑い方だ。


前髪を弄りながら指で表情を隠す昔からの癖。