「あの、あたし失恋したばかりなんです。オーディションを受けたのも、そんな失恋を忘れたかったっていうのもあります。あたしは、背伸びをしない『等身大の女の子』……が、無理がないモデルのイメージ、です」


一つ一つ言葉を選んで発言したつもりだった。



それに返ってきたのは……一瞬の沈黙。




そして大爆笑。





「ギャハハハハ !! で、咲絢ちゃんの本音は『その彼氏を見返したいからオーディション受けました』なワケ?」


笑いを隠すこともしないで50代ぐらいのオバサンがどストレートに聞いてきた。


「……見返したい、のは確かです……」


思わず不貞腐れたあたしも本音をぽろり。


「おっけ、志望の動機は分かった。じゃあ次、咲絢ちゃんの特技をみせてくれる?審査表には『カラオケ・歌うこと』って書いてあるけど」



まぁ、歌うことは嫌いではないし。



特に今なら、恭哉くんが好きだった『あの歌』も歌えそうな気がする。


男性ボーカルが奏でる、幼馴染みへの想いを綴った切ない恋の歌。


恭哉くんが大好きで、よくカラオケに行くとラストに必ずこの曲を歌っていた。


恭哉くんが歌うその曲が、あたしに向けられたものだと勘違いしていた過去の思い出。




あたしはここがオーディション会場だということも忘れて曲を歌い上げていた。


気がつくと、頬が涙で濡れている。


恥ずかしくなって頭を直角に下げると、審査員の人達が大きな拍手を送ってくれて、やや拍子抜けした。



絶対冷やかされると思ったのに。




「咲絢ちゃんね、すごく良かったよ。じゃ、結果は後で発表するから、控室で待っててね」

「はい。ありがとうございました!」



あたしは元気よくお辞儀をすると、舞台の袖に引っ込んだ。