「だってこれ、ウィッグのせいで前が見えないんだもん」

「それ言ったらアクションアクター達はどうするんだよ?咲絢と同じ衣装でスタントするのに」


うう。残念ながら一言も言い返せません。こんな格好でヒール履いて側転とか後転なんて無理に決まってます、はい。



「きをつける……」

「まぁ、気にしないで続けてこいよ」



昂くんが頭をぽんぽん叩いてあたしを控え室から送り出した。


昂くんのことだから、すぐ現場に入って撮影前のチェックをしてくれるんだろうな。


だからあたしは、いつも安心して撮影に臨めるんだ。



アクションシーンはほとんど一発でOKをもらった。

自分でもすぐ画を見てみたけど、納得できる演技でスタントさん達のシーンに繋がりそうだ。

カメラ越しの自分の演技を見るのはチェックのためでも恥ずかしいんだけどさ。


「次、『行人(ゆきと)』くん、入ります!」


次のシーンは短いけどわりと重要なシーンで、このままの格好を初めて《行人》役の月島くんにみつかるところ。



「よろしくお願いします」

大手事務所に所属してるし芸歴は月島くんの方が長いから、あたしから先に挨拶をした。


けーれーどーも。


「…………」



無言で返されたし。




ねぇ月島くんっていつもこんなに無愛想なの?あたしファンじゃないからよく知らないんだけどさ。


月島くんは原作のイメージより不良っぽい感じに制服を着崩してる。原作やアニメでは《行人》はチャラいイメージだったけどなぁ。


もちろんアイドルだからイケメンなのには変わりはないけど。



こんなにイメージが違うと、こっちも相手役としてどう接していいか、その距離の取り方にとまどうんだってば。