病室に残された私と恭哉は、しばらく無言で鳥羽さんが出て行ったドアを見つめていた。


どうにも心に引っかかった棘が、ちくちくと痛む。



何か…鳥羽さんが、何かを決意したような、そんな顔つきだったから。



昔、一度だけ同じような表情を見たことがあった。


まだ私が売れる前、鳥羽さんが私のマネージャーを外れる言った、あの時。


悲しい顔をしながら、無理矢理に笑って見せた、あの表情だ。



いきなり大事な話をされて、最初は面食らったっけ。そして、じわじわっとそれが本当に決まった事だと理解して、悲しくなった。心細くなった。




テーマパークで涙を流しながらキスしたとき、頑張らなきゃって決めた。




鳥羽さんに、胸を張って逢えるように。



今なら、胸を張って会えるようになったはずだよね?頑張って[如月咲絢]の名前を、有名にしたよね、私?



なのに、なんで鳥羽さんと一緒に仕事をするのが楽しくなくなったんだろう。




本当は、知らない人にマネージメントを任されるより、鳥羽さんといる方が安心してた部分もあるんじゃないのかな……?




もし、また。



鳥羽さんが私のマネージャーから外れるようなことになったら?



「…やっぱり、いやだ…」

「咲絢?」

恭哉が、怪訝そうに私の顔を覗く。

「恭哉、お願い。うちの事務所に連れてって!」


―――今ならまだ間に合うはず。