「なんで…!」


聞きたいことも言いたいことも一杯あるのに、私の思考回路はショートしてしまったように働かない。




「悪い。今まで連絡できなくて。だけど、ようやくこれで、咲絢の隣に俺が立っていても、誰にも文句は言えなくなったんだ。今まで……」



恭哉はくるん、と私の体を向かい合わせて、頬を両手で挟み込んだ。



「必死で頑張ってきた。俺も、咲絢の声が聞きたかった。逢いたかった。我慢してたんだ……」

「恭哉……」


広い胸に体を預けて、久しぶりに恭哉の香りに包まれた。


恭哉の声が、掠れて切なく揺れている。


不思議だよ。


もう何も聞かなくても、恭哉の一言一言を聞くだけで安心が胸の靄を晴らしていくなんて。


できればずっと、こうしていたいよ……。


私を抱き締めたまま、恭哉がポツリと言った。


「今日はこのホテルに部屋を取っている。咲絢の事務所の社長も了解済みだから。……咲絢、…いいか?」


恭哉と、一緒に過ごせるの?

嫌なわけないじゃない。



言葉は出てきてくれないから、頭を縦に振って恭哉に肯定の意思を示した。



「じゃあ少し待ってろ。そっちの社長と話してくるから」


テラスから出ていく恭哉を見送り、体は温もりが消えたことを寂しく感じている。



だから、早く戻ってきてよ。


恭哉。