桜色ノ恋謌

「……なんか、凄いね……」

私はそれだけ言うのが精一杯だ。だってなんか本当に凄い。


栄養士が作ったんじゃないかってぐらいにバランス良く彩りも豊かに飾り付けられたお重は三段重ね。


……これ一人で食べれるの?


「良かったら摘まんで?みんなの分作って貰ってきたの。食べて?」

まあ、それなら……。


「あ、玉子焼きうめ。なにこれ誰が作ってんの?」


何で遠慮なく食べてんのよ月島くん。

箸ぐらい使いなよ。



「……ママよ。本当に過保護で嫌になるわ」


公佳ちゃんはぶちぶち文句を言ってるけど、なかなかどうして凄いお母さんだね。

公佳ちゃんの仕事も私生活もしっかり管理してるんだから。


苦笑いで曖昧に公佳ちゃんの話に相槌を打ちつつ聞いていると、月島くんが急に話題を変えてきた。


「そういやさぁ、健之も菊司に転校してくるってさ。アイツ今は進学校に通ってんだけど」


はぁ?だって、もう私達3年になるんだよ?なんでこの時期に転校するとか何考えてんの!?


進学校を辞めるって……。


「どうしてうちの学校に?」


公佳ちゃんがもっともな質問を月島くんに聞いている。


「アイツの学校、進学校だから単位の取得条件が厳しいんだよ。授業を欠席したらフツーに単位取れないだろ?だから俺より仕事量も少ねーし。その点菊司はユルいから仕事に専念できるし」

「ああ、そういうことね」

公佳ちゃんが納得して頷いた。


「騒がしくなるね」

私はそう言って紙パックのジュースをズズッと啜った。



大地くんが来たら、学校中の女子生徒の皆さんがうちのクラスに押し掛けてくるんだろな。