桜色ノ恋謌

それに、思考に蓋をしていたけど気づいてたんだ。




恭哉が、私と並んで立ちたいと言った時の、切ない表情も。


私に『先に行け。すぐに追い付くから』と言った、あの激励も。




……それは、全てに意味があることだったの?




それに、高橋さんと倉木さんに恭哉の名前を告げた時にも、同じような反応が返ってきたことも気になる。


高橋さんは「先方と話し合う」と言っていた。恐らくはもう恭哉と何らかの形で接触してるのかも知れない。



だけど、私にとっては恭哉はいつまでも幼馴染みで一番大事な人に変わりはなくて。



だから、みんなが騒ぐ《梶社長》の実態が分からない。



「……みんなが言ってる梶社長って、どんな人?」


無理矢理に軽そうに笑いながら、ついでのようにみんなに聞いた。


それでも私の心の中では、大きな嵐が荒れ狂っているのに。




公佳ちゃんが、そんな私を心配そうに見つめながら《梶社長の経歴》を説明してくれた。



「……梶社長は4年ぐらい前から、自分の趣味の一環として始めたSNS《SIGMA》を一般公開してサービスを始めたの。一昨年にはスマホ向けのサービスを充実させたから、スマホの普及と共に、利用者は爆発的に増えたわ。だからもう個人での運営が困難な規模になって、株式会社を設立して代表取締役社長に就任してる。最近ではゲームアプリ開発に力を入れてて、会員数は今や日本一。……でもまだ大学生だって聞いてるけど……」


「おお。詳しいな、桜小路」

「やーね、経済紙ぐらい読みなさいよ。新聞にだって載ってるわ」

茶化す大地くんの声も、私の耳には届いてこない。


……そんな。まさか。


でも。

恭哉が電話に出てさえくれれば。

一目だけでも逢えれば。



『そんなの冗談に決まってるだろ』って言ってくれたら、こんな思いしなくて済むのに。