「撮影の日程が決まったよ。今回は夏発売の8月号の特集で、通常の屋内撮りの他にも水着と浴衣の特集を組むからロケが入るね。明日の金曜日の夜は屋内撮り。初っぱなから水着だけど大丈夫?」



大丈夫じゃない。


なんて言えない。



「もちろん大丈夫です。雑誌に載せる水着って、やっぱ新作?」



最近は鳥羽さんに敬語を使わないでタメ口を叩いてたりする。

だって最初はしっかり者に見えた鳥羽さんだけど、新卒で事務所に入ったばかりの彼は結構いろんなポカをやらかしてくれたりだし。




「《Way 》と《A.M.》の新作かな、咲絢が着るのは。他にも何社かあったけど、編集さんとスタイリストさんがモデルとの相性を見て決めるはずだから」

「りょーかいです」

「どう、初仕事? 緊張するでしょ?」

「そりゃそうだよ!あたし新入りだし、他のモデルさんと上手く絡めるのか…とかさぁ!」



鳥羽さんは楽しそうに笑って、ペットボトルホルダーから缶ココアを取ってあたしに手渡した。


「みんな良い子だし現場は楽しいよ?恋バナとか学校の話で盛り上がってた」


みんな同年代だからね、と鳥羽さんは付け加える。


あたしは渡されたココアを一口飲んだ。

ちょっと温くて甘い味が口の中に広がる。



「……おいし」


車のルームミラーであたしの顔を見た鳥羽さんが、くすりと笑った。


「咲絢がいい子にしてたら、必ずご褒美に買っといてあげるよ」


こんなご褒美、温かくて嬉しいな。