「カーット !!」



色んな思いをこめて桜小路さんを見ていた私は、監督の声で呼び戻された。


「二人とも良いな。これ見て」



監督が私と桜小路さんを呼んでモニタリングさせてくれた。


「……いいんじゃない?これが続いてくれれば問題ないけれど」


桜小路さんは素っ気なく言ったけど。



……誉められたのかな、これ。




私が先に衣装を換えて、次に撮るのは渡り廊下で《天璋院》の中臈と行き合うシーンだ。



廊下の隅で平伏した中臈の前を通り過ぎる《和宮》は、足袋を履かずに素足で歩いていた。


江戸・大奥では足袋を履くのが決まりだったけど、御所では勅許が出ないうちは足袋を履かないという決まりがあったからだ。


中臈はそれに驚いた……。というシーン。



《和宮》は少し足が不自由だったから、びっこを引きながらゆっくりと歩く。


しずしずとそれに従うお付きの侍女達。



《天璋院》お付きの中臈は平服して《和宮》が行き過ぎるのを待つ。


《和宮》の袴の裾から覗く素足に驚いた顔をする。



そして、このシーンは一発でOKを貰えた。




この日は他にいくつものカットを撮ったが、私と桜小路さんが直接台詞を交わすのはあまり無かった。



台詞抜きで、表情だけでお互いを推し測っている。


………これは、気持ちと気持ちのぶつかり合いなんだ。





天才女優と言われた桜小路さんの《天璋院》。



挨拶もできない常識知らずな私の《和宮》。



その取り巻き達の陰湿な攻防。



知りたいよ。



桜小路さんの気持ちを。