毒舌に惑わされて

「あれ?莉乃ちゃん、もう帰るの?早くない?」

マスターが気づいて、レジへ動く。マスターの声で聖也までこっちを向く。

聖也の視線を感じたけど、私は目を合わせないようにマスターを見た。


「うん、待ち人が来たから、帰るね」


聖也のことは、無視。言われたことも無視。今は野村くんとのことだけを考えよう。

支払いをして、ここを出れば、この場は切り抜けられるはず……だったのに。


「莉乃、絶対に来いよ。忘れるなよ」


聖也の言うことなんて、忘れたい。


「行かないって、言ったよね? 行かないよ」


「じゃあ、今すぐ連れて帰るよ」


「えっ?」


私はバッグに財布をしまおうとしていた手を止めた。ドアを開けようとしていた野村くんの動きも止まった。

レジから離れて、カウンターに戻ろうと一歩を踏み出したマスターまで止まってしまった。

ただ1人、動くのは聖也だけだ。


「マスター、清算して。俺も帰るから」


「は? 聖也…お前、莉乃ちゃんはこの人と帰るんだろ?」


「いや、俺と帰る」


平然とした顔で、五千円札をマスターに渡す。