母さんは看護師だった。

父さんが地方に単身赴任してる為、夜勤の時は近くに住むじいちゃんの家に泊まりに行くことになっていた。

その日の放課後も学校から直接じいちゃん家に向かった。


じいちゃん家に着くと、ばあちゃんが真っ青な顔で駆け寄ってきて。

じいちゃんとばあちゃんと三人でタクシーに乗り込み、母ちゃんが働く総合病院に急いだ。

気が付いたら、俺は待合室でぼーっと座っていて、タクシーに乗ってからの記憶がなかった。

覚えているのは、手術室の扉の上にある【手術中】のランプが不気味な程真っ赤に点灯していたことだけ。


時刻は21時を回った。

病院に着いてから5時間経った頃、廊下を慌ただしく走る足音が聞こえた。

その足音はやがて俺の前でピタッと止まり、すぐに優しい温もりに包まれた。


『蒼…』

『…父…さん…』

『ごめんな…一緒にいてやれなくてごめん…』

『ーー…っ…ゔ…うわああぁぁ…‼︎』


俺はその日初めて、父さんの腕の中で泣いた。