「悪いけど、こいつに触れていいのは俺だけだから」
卓人さんはそう言うと、私の腕を掴んだ。
「行くぞ」
「え?ちょっ…」
そして、私の腕を引っ張って立たせると、卓人さんはそのまま走り出した。
引っ張られながらも後ろを振り返ると、呆然とベンチの前に佇む永山さんの姿。
前を向くと、卓人さんの大きな背中。
何が起きてるの?
どうして卓人さんがここにいるの?
どうして私をあの場から連れ去ったの?
卓人さんの行動も、言葉の意味も、全てがわからない。
ただわかるのは、私の心は卓人さんでいっぱいで…
握られた手が熱くて、離したくなくて。
やっぱり、私は卓人さんのことが好きだってこと。
どれぐらい走っただろうか。
大きな公園の噴水の前で立ち止まると、私達は乱れた息を整える。
そして、ゆっくりと卓人さんが振り返り、漆黒な瞳が私を捉えた瞬間、鼓動が加速し始めた。

