『…いに……いでっ…下さ…』
『ん?何?もう一回言って?』
『…嫌いに……ならないで…下さ、い…』
次から次に、平井の目から涙が零れる。
こいつ…今、何て言った…?
嫌いに、ならないで…だと?
俺はこの時、初めて自分の中に随分前からあった感情に気付いた。
『勉強も出来ないし…帰りも送らないといけないし…すぐ泣くし…面倒な女ですけど…卓人さんに嫌われたら…私、立ち直れません……』
俺はうぇーん、と子供みたいに大泣きする平井の腕を強引に引いた。
『ーー…っ…ちょっと来い‼︎』
細い路地に連れていくと、俺は平井を壁と俺の間に閉じ込めた。
路地には当然灯りはない。
雑音も、今は聞こえない。
平井は驚いた様子で、涙はピタッと止まっていた。
『落ち着いた?』
『…は、はい……』
さっきまで子供のように泣いてたくせに、平井はさっきまでのことを思い出したのか、カッと顔を真っ赤に染めた。
やべぇ…すげぇ、可愛い…
『…嫌いじゃねぇよ。お前のこと』

