そんな平井から初めて笑顔が消えたのは、遣都さんに彼女がいるって知った時だった。
備品室に入って行った平井が、何故だか妙に気になってついて行くと、平井は暗い備品室の中で呆然としていた。
俺に気付いて振り向くと、頬を濡らしていて…
正直焦った。
涙を流す平井は、ガキなんかじゃない、女の表情をしていたから。
その日から、俺は平井を目で追っている自分に気付いた。
何を考えてんだ、俺は。
相手は、高校生のガキだぞ?
だけど、俺の思いとは裏腹に、いつも視界には平井がいた。
平井は、男に媚びたりしない。
女の客の小言にも一切笑顔を崩さない。
そして、他人の為に行動し、泣き、喜べる人間だ。
それは簡単そうで、実は難しいこと。
誰だって自分が可愛い。
自分に無関係なことは、極力関わりたくないのに。
穂花がこいつに名刺を渡せと頼んだ時、自分は蒼とのことで悩んでたくせに、馬鹿みたいに引き受けて。
それがお節介って言えばそれまでだけど。
こいつは単純に、穂花のために、行動したんだ。

