○元のレストラン、内
   若林と晶子、英子の話に聞き入っている。
   若林、身を乗り出して、

若林「ほんとですか?それ!」
英子「うそよ。うそうそ!ほほほ」
   急に笑い出す英子。

英子「泥酔と転落による心臓急停止。ショック死だったのよ、
   まちがいなく。秀夫はその頃調査に忙しく、毎日

   睡眠薬を飲んでたみたいだし。相当心臓が弱っていた。
   運が悪かったのよ、ハムリンに噛まれて」

若林「・・・・・」
晶子「とにかくママはその一瞬に全てが変わった」
英子「その通りよ。家庭に縛られた弱い主婦をやめて、
   強い信念を持った新しい女性が誕生したのよ」

若林「その一瞬に全てを変えた。なるほど、よく分かりました」
   若林、ステーキにかぶりつく。
   英子と晶子、微笑んでそれを見ている。

○女神湖畔、夜
   美しい星空。
   車止めに若林の四駆が止まっている。

若林の声「夏の終わりにハムスターランドは撤収した。
   晶子は何もいわずに去っていった」

○池の山ホテル、社員食堂、内
   隅で食べている若林。
   北山がトレイを持って隣に座る。

北山「おう、どうだ?小説書けてるか?」
若林「ああ、なんとか」
北山「女神湖伝説、北山虎之助。どうだ、俺の芸名だ。
   たのむぜ。映画化されたら俺本人が出るからな、ハハ」

○病院、外
   遠藤皮膚科の看板が見える。

○同、応接室、内
   院長の遠藤と木村刑事が話している。
   テーブルの上に検査書がある。
   遠藤、検査書を手にして、

遠藤「ええ、可能性としてはありますが、そのためには、
   もう一度、精密な血液検査をしてみないと」

木村刑事「検死の解剖の結果だけでは、そこまでは分かり
   ませんでした。死んだ斉藤の胃の中から大量の睡眠薬
   が出てきたことと、もう一つは打ち所が悪く、自らの

   側頭部に陶器が当たり砕けたといっても致命的なほど
   陥没はしていませんし、失血死でもありません。転落
   のショックによる心肺停止というのが結論でしたが」

遠藤「恐らくそれは間違いないでしょう」
木村刑事「数日来のストレスと過労に突発的な出来事が重なり
   転落ショック死。やはり妥当な線ですな」

   遠藤、タバコに火をつけ、
遠藤「その時の斉藤さんの血液があれば、ネズミアレルギー
   かどうか分かりますが」

   木村刑事もタバコに火をつける。
木村刑事「もう日がたってますのでねえ」

遠藤「しかし二階から投げつけたのならともかく、一緒に
   落ちたくらいであの陶器が砕けるものですかね?
   柱と間違えて二階の陶器をつかみそのまままっ逆さま、

   と言っても恐らく陶器は胸か腹部あたりで、
   頭それも側頭部というのはやはり不自然です。
   可能性はほとんどありません」