○レストラン、内、夜
   秀夫が一人でテーブルに座っている。
   陽子が来て向かいに座る。

陽子「お待たせしました」
秀夫「いやいや。急にお呼びだてして、
   彼氏に迷惑じゃなかったかな?」

陽子「彼氏なんていません・・・・」
   ワインが来る。
陽子「大事なお話して何でしょうか?」

   秀夫、ワインを一口飲んで、
   陽子の瞳をじっと見つめる。

秀夫「ずばり。君は蓮尾のスパイだろう?」
陽子「えっ?何のことでしょうか?」
秀夫「蓮尾のスパイだろう?君は?」

陽子「蓮尾部長は私の最も嫌いなタイプなので、
   絶対にそれはありません。私、帰ります」

秀夫「ちょっと待って。間違いないよね?」
陽子「絶対にそれはありません」
秀夫「分かった、謝る。申し訳ない。
   疑ってごめん。飲みなおそう」

陽子「山下総務から、誰か調査室と資料室の担当
   になる者はいないか?と言われた時、
   すぐに私が手を上げたんです」

秀夫「そうだったのか。ありがとう」
   二人、ワインで乾杯する。
   ディナーのワゴンが来る。

○ホテルの部屋、夜
   ベッドの上に秀夫と陽子。
   首の傷を見つめる陽子。
陽子「この傷どうされたんですか?」

秀夫「この間ハムスターに噛まれたんだ。
   この手の指もそうだよ、ほら」
   秀夫、手の指を見せる。

陽子「・・・・」
   陽子、じっと手の指を見つめている。
秀夫「大丈夫だよ、このくらいの傷」

陽子「一月ほど前、ネズミに噛まれて男の人が亡く
なったと言う記事を見ました。外国の話でしたが、
えっネズミにと思ってよく読んでみたんです」

秀夫「・・・・で?」
陽子「何とかというウィルスに噛まれると、人の体内に
   抗体ができるんですって。普通の人だとアレルギー
   程度で済むのに、数百万人に一人位、ショックで
   死ぬことがあるそうです」

秀夫「ほう、ぼくの体の中に抗体ができている」
陽子「ウィルスを持ったねずみにかまれたらの話です。ショック
   死はさらに数百万人に一人。まずここでは起こりえません」

   陽子、二つのグラスに水を注ぎ錠剤を入れる。
陽子「これを入れて飲むと二時間で八時間分の睡眠が取れます。
   ゆっくり休みましょう」

   秀夫、うなずき、二人グラスを空ける。