振り返ると椅子から立ち上がった荒木さんが真っ直ぐこっちを見つめていた。
「確かに、浅野さんの気持ちは分からない。だけど、あたしも同じようにいじめられた経験はあるの」
「え……?」
荒木さんの言葉に思わず口をぽかんっと開けて立ち尽くす。
ゆっくりとした足取りであたしの前までやってくると、荒木さんはわずかに表情を緩めた。
「今いる場所が浅野さんのすべてじゃないよ」
「それって、どういう……――」
「じゃあね」
荒木さんはそう言い残すと、颯爽(さっそう)と教室から出て行った。
今いる場所だけが、あたしのすべてじゃない……?
荒木さんの言葉が頭の中で繰り返される。
「あっ!ヤバッ」
その時、ハッと美奈子との約束を思い出した。
ぼんやりとしている暇はない。
昇降口には美奈子たちが待っているんだから……――。
あたしは荒木さんの言葉を吹っ切るように、全速力で駆け出した。



