キミと生きた時間【完】


「……――いよ」


「え?なに。何か言った?」


荒木さんは読みかけのファッション雑誌を机の上に置いて、顔をこちらに向けた。


グッと奥歯を噛みしめた後、もう一度口を開く。


「荒木さんにあたしの気持ちは分からない」


「なにが?」


目頭がカっと熱くなって、唇が震える。



「いじめられたことのない荒木さんに、あたしの気持ちなんてわかるわけない」


何とかそう口にすると、荒木さんは表情一つ変えずこう言った。


「……――うん。分からない。分かるわけがないじゃん、アンタの気持ちなんて」


「だったら……――」


「だけど、分かりたいって思ってる。だから今、アンタに声をかけたの」


「……え?」


「浅野さんがどんな気持ちかなんて、誰にも分からないの。だから、声をあげるしかない。限界になる、その前に」


声を……あげるしかない?


限界になる、その前に……?


荒木さんの意外な言葉に、次の言葉が出てこない。


真っ直ぐな荒木さんの瞳に気持ちが動かされる。


ただ黙ってお互いを見つめあうあたし達。


「……――授業始めるぞー。席につけー!」


ほんの少しの時間がずいぶん長く感じられた。


先生が教室に入ってきたのをきっかけに、あたし達はどちらからともなく視線を外して前を向いた。