「どうしてそんなになるまで必死になれるんだよ。普通、すぐに諦めるだろ?」


「諦められないよ。あのバッグの中にはあなたの大切なものが入っているだろうし」


中身が何かは分からないけど、自分のものをひったくられたら誰だっていい気はしない。


だから、できることならば取り返そうと思っただけ。


「それに、諦めたらそこで終わりでしょ?1パーセントでも可能性が残っている限り、あたしは犯人を追いかけ続けたよ」


あたしの言葉に彼は目を細める。


そして、呆れたようにポツリと呟いた。


「ったく。あんたどんだけお人好しなんだよ」


「別にお人好しなんかじゃないよ」


そう言って笑顔を作ってみたものの、震えは足だけにとどまらずに指先にまでおよぶ。


小刻みに震える指先に気付かれないようにギュッと拳を握りしめると、彼はゆっくりとした動作であたしの右手を包むように自分の両手を添えた。



「……?」


「もう、大丈夫だ」


あたしの震える拳を簡単に包み込めるほど大きな手のひら。


さっきまでのぶっきら棒な彼の態度とは真逆の優しくて温かい声。


『大丈夫』といった彼の言葉が溶けるのように胸の中にじんわりと広がっていく。


彼の言葉の通り、すぐに指先の震えが収まった。


「えっ。嘘……、なんで?」


さっきまでガクガクと震えていた膝ももう震えてはいない。


「どうしておさまってるんだろう……。さっきまであんなに震えてたのに……――」


「あんたが単純だからだろ」


何てことのないようにそう言ってあたしからスッと手を離した彼。