「確かにこれは俺のだけど、何で追いかけたわけ?」


「何が?」


「だって、あんたがカバンひったくられたわけじゃないし、関係ないだろ」


「ウーン……、確かに関係ないって言われたらそうだけど、とっさに追いかけちゃったの」


「追いかけてる途中に、犯人に反撃されたらとか考えなかったのかよ」


「あー、それは全く考えてなかった……かな?」


えへへっと笑うと、彼は呆れたようにため息を吐いた。



「……――バーカ。今になって怖くなったんだろ?」


彼はそう言うと、視線をあたしの足元に落とした。


「恥ずかしいけどあなたのいう通りだね。何か、安心した途端、足が震えちゃって」


まるでアニメのように自分の意思に反して足がブルブルと小刻みに震える。


膝を抑えてもその震えは収まらない。


今になって体中を恐怖が支配し始めた。


犯人と接近した時は、お互いの距離は5メートルもなかったし。


それに、犯人は凶器を隠し持っていたかもしれない。


さっきはただただ必死に犯人を追いかけていたけど、冷静になってみるとキケンな行為だった。