おれの生身の体がどこでどんな扱いを受けているのか興味が失せた。
数日後、翔也とセイラの状態を確かめたくて病院に足を運んだ。
623号室に行くとセイラがベッドで上半身を起こし、膝にのせたおもちゃのピアノを弾いていた。
普通なら迷惑になって禁止されるところだろうが、おもちゃのピアノから奏でているとは思えない旋律が癒しを運び、大目に見てもらっているようだ。
記憶を頼りに弾いているというより、指が勝手に動いている感じがした。
両親が「セイラ」と呼んでも反応がなく、自分自身の記憶を取り戻すよりも、新たな思い出を築いていくほうが家族の絆を深める早道かもしれない。



