「困ったものだ」 頭を掻きながら立ち尽くす。 狭い路地、犬を跨がないと前には進めない。引き返すことも可能だが、喉の渇きはできるだけ未然に防ぎたい。 しかたない。 目を見開き、感情を一時的に破棄し、眼球に力を込めて真っ赤に充血させた。 「犬が怖いの?」と言ったあとでクスクスと笑い声がもれた。 おれは目の充血をやめ、振り向く。 「おれに向かって言ったのか?」