予想以上に錆臭い香が口の中で充満し、吸血鬼なんだという自覚が芽生える。
どうやら物理的に現実の世界から血液は採取できるらしい。
指を回転させながら名残惜しく指を舐め回していると、作業着に『鑑識』という腕章をした男がおれの隣で中腰になり、タイルを覗き込む。
「あれ?さっきまで目地に血痕があったのに、もう消えてる」
『鑑識』の腕章を巻いた男はケースに入った昆虫採集のようなキッドを広げ、綿棒を取り、目地の溝を擦る。
それから試薬と思われる霧吹きを綿棒にかけ、ピンクに変色すると満足そうな顔をした。
「何やってるの?」
うんざりする声は鑑識ではなく、おれに向けられたものだ。



