着信の相手はクリスだ。


「クリス?おはよ!どうしたの?」

『カノンは今、パークのどこにいるの?』

え?え?パークって……。


「〈テラーマンション〉ってアトラクションの列に並んでるけど……。それがどうしたの?」


このアトラクションは一番人気だから、朝一番に並んででも乗りたかったんだ。少しでも遅く並ぶと、2時間ぐらい待たされるから。


『じゃ、そこで待ってて?』


それだけ言うと、クリスはプツリと通話を切った。


待っててっていう事は……。


クリスもここに来てるのかな?


「いたいた!カノン!」


ぐい、と腕を引っ張られて、私はクリスの胸の中に納まった。


「クリス…。なんで…?」


泣きそうな私の声は、安堵したから出たものだ。

「あ…あー…。イツメンってヤツで来たよ。カイやハルオミも来てるんだけどね、入り口に一人で座ってたアキをみつけて。で、カノンはどうしたのかなってさ」

「……蒼季のばかたれ。アトラクションには何も乗りたくないから一人で行ってきてって……」

「うわひどいね、それ」

クリスがぎゅーっと私を抱く腕に力を込めた。


私はその腕にしがみつく。



だって、異世界みたいなテーマパークの中に一人、おいてけぼりくらった不思議の国のアリスみたいに心細かったんだもん。



みんな笑顔で笑いあってて。

怒ってる人も泣いてる人もいなくて。



それなのに、彼氏と一緒に笑いあえてない私自身が一番悲しかった。