竹之内さんは確かにこう言っていた。

『だから私、奥さんより愛人の座に魅力を感じちゃうんですよねぇ』

『愛人のほうが断然優位だと思いますけど』

あれは本音だったってことか。可哀そうに。不倫なんて、男の方は99%が遊びなのに。そこに愛なんか微塵もない……とは言い切れない……かな?

とりあえず元同僚の女性には、教えてくれたお礼を伝え、今後も何かあったら報告よろしく、的な言葉を添えてトークは終了。

そこから仮眠に入ろうとしたけどモヤモヤとしたマイナス感情が残って胸くそ悪い。知らない間に、うとうとはしていたみたいだけど、セットした目覚ましが鳴った時の瞼の重いこと重いこと。上体を起こしてみたらば、身体も重い。

どんよりした気分で仕事に戻り、その後は気合だけでなんとか朝まで乗り切ったのであった。


夜勤を終えて帰宅した頃には、浩平は既に出勤していて居なかった。問い詰めるのは夕方でいいだろう。

簡単に朝食を済ませた後、シャワーを浴びてベッドに入った。目を閉じれば、たちまち吸い込まれるように深い眠りに落ちた。


目覚めたのは夕方。明けの日はいつものことだけど、結構な時間眠った割にはいまいちすっきりしない。

頭の中がぼんやりのままベッドから抜け出し、キッチンへ向かう。冷蔵庫の中を覗くと、そこにあったもので夕飯のおかずを何品か適当に作った。

テーブルの上に並べ終わると、いつもの自分の席にどっかりと腰を下ろした。

さて、何と切り出すべきか。

『昨日、ほんとは何してた?』とか、『私に嘘吐いてたりしない?』とか……もしくは……。

『浩平、私に何か隠し事してない?』

うん、これだ。あくまで自然な感じで。私はぜーんぶ知ってんだけど、浩平に自白するチャンスをあげる、的な。

「浩平、私に何か隠し事してない?」

練習のつもりで声に出して言ってみた。

「えっ? なんの事?」

思いがけず背後から返事が返って来て、心臓が飛び跳ねるぐらいには驚いた。勢いよく振り返れば部屋の入口に浩平がきょとん顔で立って居た。

「浩平、いつの間に? どうやって入った? 全くの無音だったし、無音。え? てか、いつから居たの?」

思い付いた言葉がそのまま順不同で口を衝いて出て来る。落ち着け、わたし。