好きになった人、愛した人。

「もうわかったよ、あんたが貧乏苦学生だって事は」


「ったく、減らず口ね」


あたしはカバンに入れた問題集をまた取り出し、奈生の膝になげた。


「なんだよ、この問題集はもう――」


「明日までに半分は終わらせておくこと」


奈生の言葉を遮って言うと、「はぁ?」と、不満な声が上がった。


「昨日、人にキスしといて何もなく終われると思うの?」


本当は、矢原に免じてチャラにしてやろうかなと思っていたけれど、この子に特別扱いはよくないと、思い直した。