昨晩、田山はこう言っていました。



「お互い、空手家共に、プロレスの凄さってヤツを見せつけてやろうぜ」


これがその答えなのでしょうか?


空手家を相手に、プロレスラーが空手で戦ってみせ、それで不利に陥ることのどこに、プロレスの凄さがあるというのでしょうか?



「わからないよ」
呟きが漏れました。
アトミック南斗が、私を見下ろします。
私は聞きました。
「お父さん、なんで田山のヤツ、空手で戦ってるの?空手で、健介君に勝てるわけないじゃない。健介君は、代々木流空手のエースなのよ?」
「おうおうおう、晶。おまえ、何言ってんだ?」
「え?」
父が笑みを浮かべながら、はっきりと言いました。


「田山は、いま、ちゃんとプロレスで戦ってるじゃねえか」


私は耳を疑いました。
「何を言って……」


その時、観客の歓声が大きくなりました。



私はリング上に目を戻しました。


田山が、苦悶の表情で腹を抑えて、リングのマットに膝をついていました。
健介君が構えたまま、静かな表情でそれを見下ろしていました。