やがて夕方になり、今日の興行が始まりました。


あんなチラシでもけっこう集客効果があったらしく、会場はいつもよりたくさんのお客さんで埋まっていました。同級生の顔もちらほら見えます。


うちのレスラー達は、お客さんの数を見て気合いを入れたらしく、興行は第一試合から盛り上がりました。


次々と試合が始まり、終わり、出番が近付くにつれて、私の緊張は高まります。


ガチは怖いです。


殴られるのも怖いですが、それ以上に相手の肉体を破壊しかねない自分が怖いです。


第五試合が終わりました。


「南斗さん、次出番です」
後輩のレスラーが、控え室に入ってきました。
「うん、すぐ行く」
わたしは立ち上がり、姿見の鏡を見ました。


後ろで縛った髪。目のまわりに軽いメイク。赤いリングコスチューム。


いまのわたしは、プロレスラー南斗晶です。


「しゃあっ!」
ばちんと頬をはたいて、気合いを入れると、わたしは拳を握って控え室を出ました。