川からすぐの道で、自転車が止まった。
私が降りると、祥太はバッグを背負い、自転車を道の脇に停めた。
そして二人で川原に続く階段を下りると、
あの頃と何も変わらない川が見えた。
砂利の川原を二人で歩き、
少し大きな岩に祥太が座ったから、
私も隣に座った。
川の流れる音が、
なんだか懐かしかった。
祥太は、足を伸ばして座っていて、
まっすぐ川を見つめていた。
連れてきてくれてありがとうとか、
懐かしいとか、
川が見れて嬉しいとか……
もっと気軽に祥太と話せたら、
どんなに楽しいだろう……
今、横顔の祥太に、
『祥太』って呼んで、こっちを向いてくれたら……
「………」
声を出そうとしても、やっぱり出ない。
私はポーチからボードを取り出した。
【早く、またしゃべれるようになりたい】
祥太は隣からボードを覗き込んだ。
「あせらないほうがいいよ」
私はボードの文字を消して、また書いた。
【早く祥太とたくさん話したい】
その文字を見た祥太は、
あははっと目を細めた。
「しゃべってんじゃん」
祥太の言葉に、私は首を振ってまた書いた。
【声で、話したいの!】
私が下を向いていると、
祥太が顔を覗き込んできた。
「優衣」
祥太に呼ばれて、顔を上げると、
祥太は真剣な顔をしていた。
「わかった。
優衣の声が出るようになったら、
一日中、朝から晩まで優衣の話を聞く日を作るよ。
だから、その日まで、いっぱい話したい事ためとけ。
一日中話すんだからな。
ネタ切れすんなよ」
祥太はまた目を細めて、
私の頭をポンポンと、優しく撫でた。



