おばあちゃんの家で暮らすようになり、
過換気の発作も落ち着いてきて、
体調がだいぶ良くなってきている感じがしていた。
季節は、梅雨に入り、雨の日が続いていた。
最近はおばあちゃんの手伝いもするようになり、
部屋から出ている時間の方が長くなっていた。
6月も終わりに近づいたある日、
その日は、梅雨の合間で、
気持ち良いぐらいの快晴だった。
【神社に行きたい】
お昼過ぎ、
あまりの気持ち良さに、外に出たくなり、
自由帳にそう書いておばあちゃんに見せると、
おばあちゃんは、目を丸くしていた。
「大丈夫か?行けるか?」
私は深く頷いた。
「そうか外に出る気になったのか…
よかった……
じゃあ、一緒に行ってみるか」
久しぶりに靴を履いて外に出ると、
あまりにも眩しくて、目の奥が痛いほどだった。
小道を通り、おばあちゃんと一緒に山に入ると、
あの日と同じように、
まっすぐ上に伸びている石段が待っていた。
でも、こんなに幅が狭かっただろうか……
そんなことを思いながら、
ゆっくりと一段一段上って行った。
神社に行くと、
あの日のまま、何も変わっていなかった。
鈴から垂れているボロボロの紐も、
ガランガランという不思議な音も、
あの日のまま、何も変わらない。
ゆっくりと手を合わせると、
頭の中の言葉がごちゃごちゃで、
全然整理がつかなくて、
何も願うことができなかった。
それからベンチで一休みすると、
空を見上げた。
木々の合間から見える空も同じ。
「体、大丈夫か?
もう少し休んでから下りるか?」
私が頷くと、おばあちゃんも空を見上げた。
しばらく休んでから、
また、石段を下り始めた。
一段
また一段。
ゆっくりと下りて行くと、
下から、誰かが上ってきた。
正直、まだおじいちゃんとおばあちゃん以外の人に会うのが、
苦痛だった。
何か言われそうだから。
私が立ち止まると、おばあちゃんも立ち止まった。
「どうした?優衣?」
私が下を見ると、
おばあちゃんも下を見た。
駆け上ってきているその人は、
途中からゆっくりとなって、
一段
一段と
ゆっくりと上ってきた。
白い半袖のワイシャツ
グレーのズボン
私から5、6段下ぐらいで
その人は立ち止まった。
そして、柔らかそうな前髪の隙間から、
私を見上げた。
「なんだ、祥太かぁ」