お母さんとお兄ちゃんが亡くなってから、1ヶ月が過ぎようとしていた。
結局卒業式にも行かず、
高校の入学式にも行かなかった。
人に会うのが怖かった。
人殺しの娘…
おいていかれた娘…
そういう目で見られている気がして、
とにかく人の目が怖かった。
それに毎日毎日、奥野に嫌味を言われ続け、
人間不信になっていた。
水を飲みに部屋から出ると、また奥野がいた。
奥野は昼間はいつもいて、夜仕事に行く。
そして、奥野と入れ替わりにお父さんが帰ってくる。
「優衣ちゃん、高校行かないの?
行かないんだったら、その可愛い顔を生かして、
キャバクラとか、風俗とかで働いたらどう?
可愛いんだから、すっごく稼げると思うけど。
私、紹介しようか?」
私はいつものように無視をして、冷蔵庫に手を伸ばした。
その時、
ガシッとその腕を掴まれた。
「ちょっと。
いっつも無視してさ、返事ぐらいしなさいよ!」
そう言って思いっきり平手打ちしてきた。
左の頬がジンジンとしびれた。
そして胸ぐらを掴まれた。
「邪魔なのよ。あんた。
ねぇ、あんたも死ねばよかったのよ。
あんたさえいなければ、すべてうまくいってたのに!
この家にきてから、ずっと浩介が私を避けるのよ!
あんたのせいよ!」
息が苦しくなって、両手で思いっきり奥野を突き飛ばした。
尻もちをついた奥野を、
私は息切れしながら睨みつけた。
「私だって…
私だって……
生きたくて生きているわけじゃない!!」
奥野にそう叫んで、
自分の部屋に戻り、
貯金箱の蓋を開け、上下に振ると、
出てきたわずかな小銭を、
全部財布に入れて、部屋を飛び出した。
「母親が自分の子供を道連れにして死ぬなんて、
間違ってんのよ!!
あんたの母親は、間違ってんのよ!!
自分の息子を殺した犯罪者なのよ!!
どこに行っても、
ずっとずっとあんたにつきまとうのよ!母親のことが!!
あんたは生きている限り、ずっと母親のことで苦しむのよ!!」
玄関から出ようとした私に奥野がそう言い放った。
「わかってる…
わかってるよ!!そんなの!!
言われなくてもわかってんだよ!!」
私は玄関のドアを開けて、
走り出した。



