「約束」涙の君を【完】




今までと同じ家にいるのに、


住んでいる人間が変わると、


こんなに違う家になるなんて知らなかった。



「ねぇ、優衣ちゃんって、お父さんにもお母さんにも似てないのね…」



奥野という、お父さんと一緒にこの家に暮らし始めた女が、


リビングのソファーに座ってそう言った。



私は冷蔵庫から水を出し、コップに注いでいた。





「どうして純和風な両親から、


こんなハーフみたいな顔の娘が生まれてきたのかしら?



ねぇ、本当に優衣ちゃんって浩介の娘なの?」




奥野はタバコの煙をフーと吹いた。

浩介とは、お父さんのこと。






私はその言葉を無視して、水を飲んだ。



「どうして優衣ちゃんだけ残していったのかしらね、お母さん。



一緒に連れて行ってくれれば良かったのに」



そう言って灰皿にタバコを押し付けた。





私はコップを洗って元の食器棚にしまい、


なにも言わずにまた部屋に戻った。






顔を合わせる度に嫌味をいう奥野。




一緒の家にいることが、苦痛でしかなかった。