このまま沈黙のままだと、


時間がもったいない気がした。



でも、何か話してしまったら、



泣いてしまいそうな気もして、




笑って見送ろう




笑って、笑顔でって、


何回も自分に言い聞かせていた。



「夏休みには、帰ってくるから」




「夏休み?」





「誰かさんと違って、かならず帰ってくるよ」




夏休みに……帰る約束……




「あぁ……私、あの頃……」



「わかってるよ、ごめん、冗談だよ」




祥太はぽんぽんと優しく頭を撫でた。




頭を撫でられると、目の奥がジーンとしちゃって、



ぎゅっと目を閉じた。



「ばあちゃんたちに言っといて。


夏休みは、世話になるって」




「世話に……?」





「優衣の家に泊まらせてもらうから」





うちに泊まる……




私は小指を差し出した。





「約束……」




私がそう言うと、



祥太はその指に小指を絡ませた。






「また、一緒に花火見ような」





その言葉を聞いて、



後ろから抱きしめられながら見た、


夜空いっぱいの花火を思い出した。





「うん……」





その時、電車が来るアナウンスが流れた。





「じゃあ……俺、行くな」





小指が離れ、


祥太は、肩に掛けた大きなバッグを、掛け直した。



そして、駅の方へと歩き出した。




小指に残る感触


振り向いた背中






一気にさみしさが押し寄せてきて、




「待って……」と、



思わず祥太を引き止め、



振り返った祥太の前まで、駆け寄った。







そして、背伸びをして、



私からキスをした。




祥太は、少し驚いて、



それから、ふっと笑った。




「いってらっしゃい」



私は微笑みながら言った。




よかった……笑顔で言えた……




「いってくるよ」



祥太はまた、向きを変えて、


改札を通った。





買った入場券で、ホームまで行こうか、


悩んでしまった。




笑顔で言えたまま、ここで別れた方がいいかもしれない。





でも……





ポケットの中に手を入れて、

入場券を握りしめた。





その時、電車がホームに入ってきた。