やっと抱きしめていた力がふっと緩まって、
祥太の顔が見えた。
小さな古い街灯だけど、
祥太の瞳がキラキラとしているのがわかった。
「ごめん……優衣」
また、謝った。
「どうして謝るの?」
祥太は黙ってしまった。
「デートのこと?」
「……うん」
「それだけ?本当にそれだけ?」
私が突っ込んで聞くと、
祥太はまた頷いた。
そして、ダッフルコートのポケットから、小さな箱を出して、
私に差し出してきた。
「開けてみな」
プレゼントを用意してくれていたんだ。
ちゃんと今日、会おうとしてくれていたんだよね……
大丈夫だよね……
そっと受け取り、中を開けて見ると、
小さなハートがついたリングが入っていた。
「かわいい……」
祥太が箱からリングを取った。
「手、出してごらん」
私はどっちの手につけてもらうか迷った。
まだ、右手?
もう、左手?
「えっと、どっちの……」
わからなくて両手を見ていたら、
祥太は迷わず左手を取った。
祥太の手は冷たかった。
ゆっくりとはめてくれて、
「よかった、ぴったりだ……」と、
祥太は私の指先を持って、
左手薬指にしたハートのリングを眺めた。
「ありがとう……祥太。
あ……私もあるの」
私はポケットからブレスレットの入った箱を出し、
祥太に差し出した。
「開けてみて」
祥太は、ふっと笑ってから、
そっと受け取ってくれた。
箱を開けて中のブレスレットを取り出すと、
祥太は、なにも言わずに、ブレスレットと、左手を出してきた。
私がブレスレットを受け取ると、
祥太は右手でコートの左袖を少し引っ張った。
あの夏の日、祥太の左手首に髪ゴムを通したことを思い出した。
今、こうしてまた、祥太にブレスレットをつけていることが、
不思議な感じがした。
カチャッとシルバーのフックをつけると、
祥太は左手首を眺めた。
「ありがとな……」
そしてまた、ぎゅっと抱きしめてきた。
抱きしめられると、いつも嬉しいのに、
どうして今日は、
こんなに切なくなるんだろう……