それからまた、階段に戻ってきて、
祥太のズボンの裾が少し乾くのを待ってから、
すぐ近くにある水族館へ行った。
祥太はひとつひとつ水槽の前でじっくりと見入っていて、
本当に生き物が好きなんだな……と思った。
小さい頃も、魚とか、虫とかが好きだったもんね……と、
目を輝かせながら水槽を見つめている祥太の横顔を見ながら、思い出していた。
水族館内で遅めの昼食も済ませて、
また、海岸に戻り階段に座ると、
「なんでも話し聞くよ」と、
祥太は足を伸ばした。
そうだ、一日私の話を聞いてくれる日だったんだ。
何を、
何から、話そうかな……
色々言葉を探しても、頭に浮かんでくる言葉はいつも同じで……
「祥太」
「ん?」
私が呼ぶと、首を傾げながら私の方を向いた。
「祥太」
もう一度呼ぶと、祥太は「あはははっ」と笑って、
「なんだよ」って、また笑って……
「私ね、声が出ない時、
早く『祥太』って呼びたかった」
祥太は少し考えてから、「そっか……」と、海の方を見た。
「祥太?」
「ん?」
祥太はまた、私を見た。
「こうやってね、名前を呼んで、
こっちを向いてくれたら、
どんなに幸せだろうって、思ってたの」
祥太は、「あはははっ」と、下を向いて笑った。
「祥太。
ありがとう」
頭に浮かぶ言葉はいつも、この言葉。
「祥太がいなかったら私……
ずっと下を向いたままだった。
人の目が怖くて、
周りの反応を気にして、
顔を上げる事ができなかった。
でも、祥太がいつもそばにいてくれたから、
いつも優しくて、
大丈夫だよって言ってくれたから、
私……
噂されたり、白い目で見られてしまう私だけど、
下ばっか見ないで、
顔を上げてもいいんだって、
顔を上げて生きていってもいいんだって、
思えるようになった。
ありがとう……祥太。
本当に、ありがとう」
話し終わって祥太の顔を見ると、祥太はまっすぐ海を見つめていた。
「それは、俺の方だよ……」