「約束」涙の君を【完】





ぎゅっと強く抱きしめられたから、


私もそっと祥太の背中に腕を回した。



「祥……太?


鬼ごっこじゃなかったの?」



「いや……なんかつい……」





祥太の胸から声が響いてきた。






「逃げるのが、もったいなくなった」






祥太は抱きしめながら、私の髪を撫でた。




そして、私の肩をそっと押して、




ちゅっ




と、軽く唇に触れるだけのキスをしてきた。




「タッチしたぞ。んじゃっ」



祥太は笑いながら、走って行ってしまった。





「えっ。ず、するいよ!もう!」



いきなり、ドキドキさせて……ずるい!




私もまた走り出した。



押し寄せる波の中に、

足が入っては、また引いて……




大笑いしている祥太の背中にタッチして、


向きを変えて今度は私が逃げ出した。





走っている足から、水が跳ねてきて、



その冷たさにきゃーきゃー声を出して笑った。




気づくと、波が膝まで当たるところまで入ってしまっていて、



少し大きな波に立ち止まった。



目の前に広がる藍色の広大な海。


水面がゆっくり盛り上がっては、


白い波となって、何度も押し寄せてくる。



一瞬にして、お母さんとお兄ちゃんの顔が浮かんできた。




波が、まるで生きているかのように、


私の足を押しては引いていく……






その広さと、力に、




怖いと思った。







お母さん……お兄ちゃん……



こんな……



こんな所に飛び込んでいくなんて、






怖かったよね……



きっと、怖かったよね……



さっきまであんなに笑っていたのに、


急に涙があふれ出そうになった。




その時、





後ろからそっと抱きしめられた。