二人が死んだ海じゃなくて、
祥太と来た海になる……
「俺は優衣と、海に行きたいんだ……」
祥太は俯いてしまった。
祥太の気持ちが嬉しかった。
「祥太はいつも私のことを考えてくれているのに、
勝手なこと言って……ごめんね。
ありがとう……祥太」
祥太は顔を上げた。
「行こう」
祥太に手を引かれて歩き出した。
しばらく防波堤を歩いていくと、
海岸が見えてきた。
ゆっくり歩いていたのに、突然祥太が立ち止まった。
祥太の顔を見上げると、
祥太は、とても切なそうな表情で海を眺めていた。
少し冷たい海風が吹いて、私は自分の髪を耳にかけた。
海の方に目をやると、
人がまばらな砂浜に向かって、
何度も波が押し寄せていた。
海……
二度と行くことはないと思っていた海が、
目の前に。
祥太に手を引かれて砂浜に続く階段を下りると、
途中で祥太が立ち止まって、階段に座った。
私も、短いスカートを抑えながら、
隣に座った。
祥太はしばらく何も話さないで、
ずっと海を眺めていた。
隣から一緒に海を見ていたら、
さっき見た飲み込まれそうな黒い海よりも、
もう少し、穏やかな海に見えてきた。
少し気持ちが落ち着いてきた時、
祥太はズボンの裾を少し折って、
靴下を脱ぎだし、
それを靴に入れて、
裸足で立ち上がった。
そして、1、2段階段を下りると、私の前に膝まづいた。
「え、えっ……」
私が祥太の行動に戸惑っていると、
祥太は私のサンダルをそっと脱がせた。
祥太はまるで、いたずらっ子のような笑顔で私を見上げ、
私の手を引っ張って立ち上がらせた。
そして、私の手のひらをポンと叩いた。
「優衣が鬼ってことで。じゃっ」
そう言って祥太はダッシュで階段を駆け下りていった。
え。えっ????
お、おにごっこ???
私は、周りをキョロキョロと見回した。
ほとんど人がいないし……
私は、バッグを下ろして、階段をゆっくりと下りた。
砂が足の裏に当たって痛い・・
痛い痛いと思いながら、砂浜に下りると、
砂に足が埋まった。
ゆっくり歩くと、足がその度に砂に埋もれて……
歩きにくい……痛い……
痛い痛いと歩きながら、ふと祥太と出会った夏を思い出した。
あの時も、川に入ったら足の裏が痛くて歩けなかったな……
そんなことを思い出しながら、祥太を見ると、
祥太はもうすでに遠くの波打ち際まで行ってしまっていて、
そこから私を見て笑っていた。
その笑顔にキュンとしちゃって……
早く、祥太を追いかけなくちゃ……と、少し歩くスピードをあげると、
だんだんと砂が硬くなってきて歩きやすくなり、
波打ち際までくると、
足の裏がひんやりとした。
祥太は逃げるそぶりも見せないで、
いつまでも私を見て笑っているから、
私はその場から走り出し、祥太に向かって手を伸ばした。
すると、その手をぐっと引っ張られて、
抱きしめられた。



