バスを降り、それから電車を乗り継いで、
1時間程で祥太は改札を出た。
電車を降りた時から、独特の香りが鼻をついた。
ここ、どこ?
どこだかもわからずに、
祥太に手を繋がれたまま、
改札を出てから、しばらく歩いた。
そして、しばらく歩いた先に見えたのは、
海……
電車の窓から少し見えていたけど、
海は好きじゃないから、
見ないようにしていた。
海は嫌い。大嫌い。
だって、
お母さんとお兄ちゃんが、死んだ場所だから。
立ち止まった防波堤の先に見える、青いはずの海が、
私には真っ黒に見えて、
ゆっくりと揺れる波に、
私まで飲み込まれてしまいそうな、
恐怖を感じた。
祥太は繋いだ手をぎゅっとした。
「もう少し歩いて、
海岸に行ってみよう」
祥太が歩き出したから、私は繋いだ手を引っ張って立ち止まった。
「私……海岸には行きたくない」
祥太は手を繋いだまま、私の前に立った。
「行こう、優衣」
「やだ……」
「優衣」
「行きたくない、私、海は嫌い!」
祥太がせっかく連れてきてくれた場所だけど、
違うところがよかった……
「どうしてこんな事するの?
祥太も知っているでしょ……
私にとって海がどんな場所か」
祥太は頷いた。
「知っているから、連れてきた」
祥太は真剣な表情で、私をまっすぐ見た。
「悲しい記憶を消すことはできなくても、
俺が、楽しい記憶で埋めてやるから」
記憶を埋める……
「海を見るたびに悲しい記憶が蘇るなら、
俺と来た事で、
次、海を見た時は、
俺との海を思い出させてやる。
だから行こう、優衣」



