バス停に着くと、祥太は繋いだ手を離して、時刻表と腕時計を照らし合わせた。
「すぐ来るよ」
祥太はバス停のそばにある、古いベンチに座った。
私は服が汚れてしまいそうな気がして、
座るのを躊躇した。
「あぁ、汚れるか……」
祥太が気にして立ち上がろうとしたから、
私は、ベンチに座った。
「いいの、汚れても」
私が祥太に笑いかけると、
祥太は下を向いて笑った。
祥太は最近、笑う時下を向いてしまう事が多い気がする。
さっきみたいに、まっすぐかわいい笑顔を見せてほしいのに……
あまり今日はしゃべってくれないし、ちょっとさみしいと思っていたら、バスが来た。
数人しか乗っていないバス。
一番後ろの窓際に私を座らせて、
祥太は隣にどかっと座ってきた。
バスが走り出し、窓の外を見た。
遠くに見える山並み。
川にかかる小さな鉄橋。
ここで暮らすようになって約3ヶ月。
私は、ここが好きだ……
ゆっくり流れる景色を見ながらそう思った。
そっと指を絡ませ手を繋がれたから、パッと隣の祥太を見ると、
祥太は反対側の窓の外を見ていた。
髪がふわふわっとはねていて、
前髪が少し目にかかっていて、
大きく首元が開いたTシャツを着ているから、
首筋や綺麗な鎖骨が見えて、
隣からドキドキしてしまった。
本当に大人っぽくなったな……祥太。
繋がれた手も指も、
隣から見える体も……
「ん?」と、急に祥太がこっちを向いたから、
恥ずかしくなってまた窓の外に目をやった。
私、祥太の体を見て、
何を考えているんだろう……
かぁ……と、一気に顔が熱くなっていくのを感じた時、
ふわっと頬に温かい感触が……
びっくりして祥太を見ると、
祥太は繋いだ手と反対の手で、
私の頬に手を当てていた。
目が合うと、祥太はすぐに目をそらして、
頬に当てた手を、優しく自分の方に引き寄せ、
私を肩にもたれさせた。
「今から行くのに、
もう、連れて帰りたいよ」