正門を抜け、橋を渡り、右に曲がると、
祥太は、左側にいた私の肩を引き寄せ、
自分の右側に私を置いた。
もうほとんど降ってないぐらいの小雨の中、川沿いを歩いた。
そして左の坂道を上がって、右に曲がると、
今までアスファルトだったのに、泥道になったから、
急に歩きにくくなった。
家までまっすぐのあぜ道。
「止んだな……」
祥太は空を見上げてから、傘を閉じた。
そして、今度は私の手を繋いできて、
水たまりをよけながら、
笑い合いながら、家まで歩いた。
家の前に着くと、
祥太は、手を離した。
「そうだ、来週テストだろ?」
「うん」
「だから……来週、テスト終わって、
土曜日。
どっか出かけるか」
出かける……?
「朝から晩まで、優衣の話を聞くから」
あ……
【優衣の声が出るようになったら、
一日中、朝から晩まで優衣の話を聞く日を作るよ】
約束、覚えていてくれたんだ……
「どっか、ゆっくり話が聞ける所を、探しておくよ」
私は嬉しくなって、「うん!」と元気に頷いた。
祥太は「あはははっ」と笑って、
私の頭を撫でてから向きを変えて、
来た道をまた戻っていった。
空が一気に晴れてきて、祥太が夕日の方へ歩いていくのを、
まぶしげに見つめていた。
祥太が、何度も振り返るから、
私はその度、手を振った。
そして坂道を下る手前でまた振り向いて、
祥太が右手を上げた。
………ん?
よく目をこらしてみると、
祥太は空を指差していた。
私は空を見上げた。
……ん?
なんだろう?
そのまま空を見上げながら、ぐるっと後ろを振り返ると、
「あ………虹………」
空に半分よりも少し欠けた虹が見えた。
「綺麗……」
しばらく虹に見惚れてから、
また振り返って、祥太の方を見た。
祥太はまだその場に立っていて、
私が手を振ったら、
坂道を下りて行った。
私はまた振り返って虹を見た。
土曜日、楽しみだな……
私はしばらくそのまま、
虹を見ていた。