「喋れるようになったんだって?」
廊下に出るなり、陽菜の方から声を掛けてきた。
「うん」
「で、私に言い返しにきたの?」
今日は周りの女子たちがいなくて、
一人でいた。
「言い返すんじゃなくて、私の気持ちを伝えにきたの。
私、もう家族のことで苦しまない。
私は家族のことで一生苦しむんだって思ってたけど、
それは違う気がしてきた。
だって……
私にとっては、大切な家族だから」
陽菜はあきれた様に笑い出した。
「はあ?何開き直ってんの?
犯罪者の娘のくせに」
私は一度深呼吸してから、頷いた。
「確かに、お母さんのしたことは、許されることじゃない。
自分の命も、人の命も奪っちゃいけない。
お母さんは犯罪者かもしれない。
でも、私にとっては、犯罪者の前に、
私を産んでくれた、大切なお母さんだから。
もう、何を言われても、私は、
家族のことで苦しまない」
陽菜をまっすぐ見つめてそう言い切った。
廊下を行き交う人たちが、チラチラとこちらを見ながら通り過ぎて行った。
「あっそう。勝手にそう思ってれば。
でも、周りは変わらないから。
結城くんだって、そのうち気がつく。
水沢さんとは付き合えないって」